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ジェンダーと生き方と

今年も残すところ、あとわずかとなりました。今年はウイルの大きなイベントがあり、また、私事ですが、年末に離婚をいたしましたので、本当に慌ただしい1年でした。芸能人でもあるまいし、HPに自身の離婚について表明するのも恥ずかしいことですが、離婚に関してジェンダーが深く関わっていたため、書かせていただくことにしました。

 

 21年前に娘を出産後、2か月の産休を経て職場に復帰。産休を取得した社員は私が初めてであり、それを快く思わない人たちから、マタニティ・ハラスメントを受けました。それは、今思い出しても胸が詰まる、地獄のようなハラスメントでした。

ある日、いつものように上長が、ほかの社員の前で「おまえは給料泥棒だから、死んだ方が会社のためだ。今夜、死ねばみんな喜ぶぞ」と、何度も繰り返し言いました。今思えば「産後うつ」だったのでしょうか、その夜、その言葉の通り、私は自殺しました。幸い、命は助かったのですが、その時の情景が悪夢となり、15年以上、病気に苦しめられました。嫌な思い出をなかったことにするために、私は多重人格(解離性同一性障害)になりました。ほとんどの時間は病気を感じずに過ごせるのですが、トリガーが悪夢を呼び覚ますと、家から逃げ出し、裸足のまま深夜の町を徘徊しました。その時の記憶は次の日にはまったくないため「自分でもわからないうちに死んでしまうかもしれない」という恐怖に晒されていました。

 

重い精神疾患を抱えた結婚生活に夫は限界を感じ、もちろん娘も無傷ではいられませんでした。私以上に辛そうな娘を目の当たりにし、病気を治さなければいけない、と決意しました。5年以上にわたる様々な治療への取り組みは、自分でいうのも何ですが、本当にがんばったと思います。そして、気力、体力が満ち、悪夢を断ち切る最後の仕上げが、2人で話し合った結果の離婚でした。自分のこと、娘のことで精一杯で、夫のことを顧みるゆとりはなく、寂しい思いをさせてしまったことを本当に申し訳なく思います。こんな私と、20年以上結婚していてくれたことをありがたく思います。彼と新しい関係が築けるかどうかはわかりませんが、あの日の悪夢を自分の中で終わりにできたことで、今は清々しい気持ちです。

 

それでも「マタハラさえなければ、別の生き方があったのかな」と、時々思うこともあります。そんな思いから、ジェンダー平等の実現を目指すウイルで活動をしています。もう少し時間にゆとりができたら、学び直し、マタハラ・パワハラに苦しむ人をサポートしていきたいなどと、大きな夢も持っています。今の時点でできることは、私の経験を話すことくらいですが、それでも伝えたいことがあります。それは「想像力をもって共感してほしい」ということです。例えば、育児中の男性社員が自分でお弁当を作ってきたときに「かわいそう」と言うかわりに「がんばってるね」と言ってあげてください。予算や制度を作るには少し時間がかかりますので、まずは育児中のお父さん、お母さんを想像し共感するだけで、みんながちょっとだけ幸せになれると思うのです。

私は当時、会社にハラスメントの改善をお願いしてもスルーされ、共感してもらうことは、結局ありませんでした。それでも、会社には感謝しています。働き続けることで、人生の進路を自分で決められたからです。裕福ではなくても、生計を維持できる賃金と、未来にもらえる厚生年金があることは、女性の自立にとって重要だと身をもって知りました。ジェンダーの教科書に書いてあったことは本当でした。

 

そして、もうひとつわかったことが、夫婦別姓の意義です。離婚後に「木村さん」と呼ばれて、ほっこりとしました。真綿にくるまれたような、優しい居心地です。結婚後に「後藤さん」になった時は、少なくとも1年間くらいは、呼ばれるたびに違和感がありました。しかし、両親がつけてくれた名前で培ってきたアイデンティティーは、消えることはなかったのです。成人している娘は分籍し、後藤の名前を選びましたが、それは当然の選択だと思います。日本ではなかなか実現しない「選択的夫婦別姓」は、自分が自分らしく生きるために、本当に必要なことであると実感しました。

 

 

なかなかにハードであった半生ではありましたが、自分史上最強のメンタルとなったいま、この体験を今後に活かしていきたいと思っています。これからも、ウイルともども、よろしくお願いいたします。

NPO法人ウィメンズウイルぐんま 理事長 木村恵里子 

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コメント: 2
  • #1

    石井水穂 (火曜日, 09 1月 2024 22:43)

    お久しぶりです。牛込です。年賀状どうもありがとうございました。相変わらず、恵里子さんはNPOを立ち上げて前向きだななんて思いながら、読んだ文章に本当に驚き、心が痛いです。会社でのハラスメント、そのせいでの病気、本当に簡単な言葉では言い表せないです。元気になった今、恵里子さんの夢が叶うよう、陰ながら応援します。頑張って下さい。

  • #2

    もろ悦子 (金曜日, 03 5月 2024 01:41)

    今度会った時に、木村さんを思いっきりハグします!