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2022年3月レター理事長挨拶

2月24日、隣国の都合というよりも、1人の独裁者の都合により、ウクライナへの侵攻が開始されました。戦争は、こんな理不尽なカタチで始まるのだと、強い衝撃を受けました。折しも、2月27日のある講演で、演者が「戦争は男が始めるものではない。軍人さんが恰好いいと女性が言うから、男はもてたくて軍人になる。戦争は男女で始めるものだ。」と、1度ならず2度も口にされました。「これは冗談なのか?」と、違和感を覚えましたが、違和感を説明することができないうちに会は終了しました。 

帰る道すがら、思い出したのは『戦争は女の顔をしていない』(アレクシエーヴィチ原作・岩波現代文庫)という本です。著者が聞き取りを行った独ソ戦に従軍した500人以上の女性兵士は、男女同権が歌われた旧ソ連において、スターリンによる愛国主義プロパガンダに踊らされ、自ら志願し戦地に行きました。性別や「もてたい」などといった市民の感情で、戦争は始まりません。国家や権力者が、そのような状況を作り出すのです。女性兵士達は、戦争後に英雄視された男性兵士とは対照的に「戦争の雌犬、あばずれ」とひどい差別を受け続けました。この本は、人間が国家や制度の犠牲になっていく構造を、証言により淡々と明らかにしています。また、ジェンダーの視点からも、戦争の過酷さや悲惨さを浮かび上がらせました。著者はその後、ノーベル文学賞を受賞しますが、ベラルーシでは「祖国を中傷した」として、長く出版禁止となっていました。そのベラルーシは、今回の侵攻でロシアを支援し、経済制裁を検討されています。

 ロシアにもベラルーシにも戦争反対の人々は存在し、すでに拘束された人も数多くいます。ウクライナはもちろん、ロシア・ベラルーシ、さらには世界の多くの地域で、市民が、国家や制度の犠牲になっています。理不尽な仕打ちに対抗するためにも、戦争についての認識をしっかりもたなければいけないと、講演で質問できなかった私は反省しました。戦争について考えたうえで、砂浜の一粒にもならない程度ですが、UNHCRを寄付先に選びました。

一刻でも早く、ウクライナの方々に笑顔が戻ることを、心より祈っております。(後藤恵里子)